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名古屋高等裁判所 昭和44年(う)432号 判決 1969年10月29日

被告人 尾崎松栄 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人酒井祝成作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、宅地建物取引業法には、過失を処罰する旨の規定がなく、同法一八条の三に違反し、同法二七条一項四号に該当する罪も故意犯のみを処罰する趣旨と解すべきところ、被告人尾崎松栄が、原判示の如く、原判示の不動産物件の売買を成立させたにもかかわらず、その都度、所定の事項を帳簿に記載しなかつたのは、故意によるものでなく、過失によつたものであるから、被告人の原判示各所為は、いずれも罪とならないにもかかわらず、これを有罪とした原判決には、右被告人の原判示各所為を故意によるものと認定した事実の誤認と右法令の解釈適用を誤つた違法があり、被告人及び被告人会社の関係において、破棄を免れない、というのである。

然しながら、原判決認定の原判示事実は、原判決挙示の証拠により、優に認められる。而して宅地建物取引業法に、過失を処罰する旨の規定がないことは所論のとおりであるけれども、同法二七条一項四号の規定中、「同法一八条の三の規定による帳簿に、同条に規定する事項を記載しなかつた者」とは、同条項が取り締る事項の性質に鑑み、故意に、右帳簿に、同法一八条の三に規定する事項を記載しなかつた者ばかりでなく、過失により、前同様記載しなかつた者をも含む法意であると解するを相当と思料するから、これと異なる見解に依拠する所論は、既にその前提を欠き、失当として排斥するの外なく、これを要するに、原判決には、被告人及び被告人会社の双方の関係において、所論の如き違法の廉がないので、本論旨は採用できない。(なお、職権で、原判決の法令適用の当否につき調査するに、「原判決認定の宅地建物取引業法一八条の三に違反し、同法二七条一項四号に該当する罪は、同法一八条の三の規定によれば、同条項に掲げる取引のあつた都度、同条項所定の帳簿に、同条項に規定する事項を記載しなければならないのであるから、右取引があつたにかかわらず、当該取引のあつた際、前記の記載をしなかつた都度成立するものと解しなければならない。これを本件について観ると、原判決認定の罪となるべき事実は、要するに、被告人が前後一六回にわたる前記該当の取引の都度、当該取引に関し、前記の所定事項を右帳簿に記載しなかつたというのであるから、その記載をしなかつた都度、同法一八条の三に違反し同法二七条一項四号に該当する罪が成立したものにかかり、同各罪は刑法四五条前段の併合罪の関係に立つものといわなければならない。しかるに、原判決が原判示の罪となるべき事実を、包括一罪として処断しているのは、その法令の適用に違法があるといわなければならないが、被告人のみが控訴を申立てている本件にあつては、右違法は判決に影響を及ぼすものではない。)

従つて、本件各控訴は、いずれも理由がないので、各刑訴法三九六条により、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

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